もともと症状も気道性過敏も軽い方のなかには、薬を使わなくても症状がない期間が長く続く方がいます。しかし、ある程度以上の発作を起こしたことがある方は、ずっと何らかの薬を使い続ける覚悟をした方がいいと思います。調子がとてもよければ、薬の減量の指示が医師の方からあるでしょう。ただ、薬の増量というのは速やかに行われますが、減らすのは時間がかかります。吸入ステロイドやロイトコリエン拮抗薬など、症状をコントロールするための薬は、症状が出ていればその症状が抑えられるまで増やしていきます。そして症状が抑えられたら、様子を見ながら少しずつ減らしていくのです。減らすのは3ヵ月を目途にします。3ヵ月間とてもいい状態が続いたら一段階減らす。それでもなおよい状態が続いたら、さらに一段階減らすという風に段階的に減らしていくのです。
正しい使い方と使うタイミングについて教えてください。
β2刺激薬、つまり気管支拡張剤の正しい使い方の目安として、ピークフローの結果を記録している患者さんの場合は、正常値の20%以上落ちていて、ある程度症状があれば使っていいと思います。ガイドラインでは気管支拡張剤は1日4吸入までということになっています。数日間であれば1日1回~4回吸入していただくのは構いません。ただし、3~4回吸入しても症状が充分取れない、あるいは1~2回吸入しても全く症状が変わらない、あるいは悪化するという状態でしたら、医療機関を受診していただくというのがひとつの目安です。1~2回、または3~4回吸入して充分症状がとれているようでしたら、数日様子を見られてもいいでしょう。通常よくなっている患者さんの場合は、1年に1本も使いませんから、2ヵ月に1本使われるとすれば、明らかに使い過ぎです。その場合は気管支拡張剤に頼り過ぎないで、その他の予防薬でコントロールしていただきたいと思います。
ひとつ強調したいのは、「使いすぎに注意」というのは、発作のときに気管支拡張薬を使うなという意味では決してないということです。発作の時には早めに使用してほしい。ただし決められた回数の気管支拡張薬使用だけでは治まらなかったり、もっと苦しくなったりするようなら、病院へ行って点滴を受ける、救急車を呼ぶといった次の手を打ってほしいということなのです。これだけはよく知っておいてください。ぜんそく死の原因としても、適切な治療の遅れが挙げられています。
妊娠中でも、ぜんそくの治療で使えない薬はまずないと思います。妊娠とぜんそくとの関係で一番怖いのは、発作をおこして胎児にゆく酸素の量が少なくなっておきる胎児低酸素血症です。胎児の低酸素は催奇形性などの影響があるので、とにかく、まずきちんと治療して、体調をいい状態を保っておくことが大事だと思います。アレルゲンがはっきりしていたら環境をととのえる、体調管理をしっかりして風邪をひきにくくするなど、薬以外でも発作を予防できることはたくさんあります。しっかり治療をして早産をしないようにぜんそくをよくしておくことが大事です。
布団についているダニを吸うことが日常生活の中では一番多く、また、ダニは粒子が大きいので、掃除をしたときとか、布団の上げ下ろしをしたときに空気中に舞い上がり、それを吸うことが多いのです。つまり布団のダニをうまく処理することが一番手っ取り早いダニアレルギー対策です。寝室をフローリングにし、できればベッドにします。通常の掃除は普通にやってください。布団を高密度のカバーで覆ってしまうのもよい方法です。カバーの使用は敷布団、かけ布団、枕および毛布のすべてに使ってください。毛布はタオルケットを1週間に1回程度丸洗いして使うのもよいでしょう。それが無理ならば、部屋の掃除をよくすること、布団を干して乾かし、布団の表面に出てきているダニを掃除機で吸い取ること、寝る直前にベッドメイクをしないことです。
タバコは駄目です。気道の炎症を取る吸入薬の効果も損ないます。受動喫煙も好ましくありません。煙が苦手の人は線香の煙にもご注意ください。過労も喘息症状を引き起こす原因になるため避けましょう。過労状態での風邪は大発作につながることもあります。いつも養生する気持ちを持ち、夜更かしや睡眠不足は避けましょう。また趣味も度が過ぎれば過労になります。とくに体調が悪いときは安静に努め、点滴をしてよくなっても、その後本当に落ち着くまで無理をしないことも大切です。
神奈川県下では、ぜんそくの患者さんは普段はぜんそくをよく理解している身近なかかりつけ医にかかり、なかなかコントロールできないときは専門医に診てもらうというように、専門医とかかりつけ医が連携して、何かあったときは都道府県に最低1つある集学的医療施設を紹介したり、そこからアドバイスを受けていくことを目標としています。この集学的医療施設というのはアレルギー疾患全般をカバーできる診療科があって、アレルギー疾患の患者さんが他の病気で手術等が必要なときでも充分対応できるような体制を整えている施設です。神奈川県では小児に関しては神奈川県立こども医療センター、小児および成人に関しては当相模原病院がそれにあたります。
ぜんそくとは気道の慢性炎症で、可逆性のある種々の程度の気道狭窄と気道過敏性の亢進、症状としては繰り返し起こる咳、喘鳴、呼吸困難で特徴づけられる閉塞性呼吸器疾患と定義されています。 重要なのはぜんそくが慢性の炎症だということです。気管支鏡でぜんそく患者さんの気管支を見て、組織の一部をとり、これを光学顕微鏡や電子顕微鏡で調べると、患者さんの気道がほぼ例外なく強い炎症を起こしていることがわかっています。 以前はぜんそく発作でキューッと縮まった気管支の狭窄を拡げて、呼吸困難を治めることが治療の主眼で、使われる薬は気管支拡張薬が主体でしたが、根底に気道の炎症があるとわかって、1990年前後からぜんそく治療の主体は抗炎症薬に取って替わりました。今の段階で一番効果が高い抗炎症薬は吸入ステロイド薬です。吸入ステロイド薬は長期管理薬、つまり発作を治める薬ではなく、ふだんからきちんと使い、気道の炎症を抑えてぜんそくのコントロールを良好に保つための薬として使われます。
吸入ステロイド使用後のうがいは必ずする必要がありますが、吸入ステロイドの種類によっては、吸入力が弱いと口腔内に落ちやすいものもあり、また高容量になるほどカンジダ症は起こりやすくなります。さらに十分なうがいを心がけてください。口腔内の障害であれば吸入、うがい後に食事をして、口腔内を綺麗にして防ぐ方法もあります。食道カンジダを合併した場合は抗真菌剤のシロップなどを用います。その後はさらにうがいを強化し、吸入薬の変更などを検討してもらいます。オルベスコは気道の奥に行きやすく、口腔内では作用が出にくいとされています。
COPDは、日本語で慢性閉塞性肺疾患といいます。その原因は日本ではまずタバコです。タバコを吸わない人には出ないだろうと思います。 同年代の方と旅行して階段を上るときなどどうしても遅れる、同じ速さで歩けないということであれば、ピークフローメータ値がちょっと落ちているじゃないかと思います。現在使っている薬の量が足りないのかもしれません。タバコを吸っていらっしゃらないのであれば、COPDの心配はないでしょう。
メプチンだけというのは、望ましくないです。自覚症状が軽くて、その時だけと思っても年々リもデリングが進み、呼吸機能がさらに低下していく可能性もあります。しっかり治療されるべきでしょう。無理や運動で症状が出るなら、吸入ステロイドを使ったほうがよいと思います。自覚症状だけに頼らず、一度は呼吸機能検査を受けましょう。
アスピリンぜんそくでは、アスピリンだけではなくほとんどの解熱鎮痛剤で過敏にぜんそく症状が出てしまいます。非常にぜんそく死をきたしやすい強い症状が出る怖い過敏体質です。アスピリンぜんそくという名で知られていますが、「解熱鎮痛剤過敏ぜんそく」とよぶのがよいでしょう。成人のぜんそく患者さんの1割ぐらいがそれにあたり、大人になって急に体質が変わるということと、あまり遺伝性がないことがわかっていますが、原因はよくわかっていません。大人のぜんそくの方で、とくに気をつけていただきたいのは、篩骨洞(しこつどう)という副鼻腔の鼻の匂いの神経のところにポリープが早期にできやすいことです。成人ぜんそくで、コーヒーや味噌汁の香りが判りにくいなど、匂いに鈍感になっておられたら、6割以上の確率で解熱鎮痛剤過敏ぜんそくの可能性があります。疑いがあれば、ぜひ主治医の先生に相談してほしいです。
解熱鎮痛剤過敏は血液検査ではわかりません。問診、今まで安全に使っておられたかどうかという既往、そして専門病院でできる負荷試験で診断するしかありません。少しでも疑いのある患者さんがいらっしゃったら、ぜひ専門病院で相談してください。
まず負荷試験を受けて、本当にアスピリンぜんそくかどうかの診断をしてもらったほうがよいでしょう。アスピリンぜんそくでなければ、一般の解熱鎮痛剤が使えます。疑いのある方は、とりあえずアセトアミノフェン(商品名タイレノールなど) を使っていただければと思います。これだと大量でなければ安全です。解熱鎮痛効果はそれほど強くないですが、塩基性の消炎剤よりは使えます。